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問題解決ドリル - 世界一シンプルな思考トレーニング (坂田直樹) 。常識外れの楽天イーグルスの観客動員戦略は、顧客視点では理にかなっていた

問題解決ドリル - 世界一シンプルな思考トレーニング という本に紹介されていたプロ野球楽天イーグルスの顧客動員戦略から、顧客視点の重要性を考えます。

 

問題解決ドリル
 

 

エントリー内容です。

  • ユニークな競合設定
  • 顧客視点での競合設定と差別化
  • 楽天イーグルスの戦略からの学び

 

ユニークな競合設定

本書には、プロ野球東北楽天ゴールデンイーグルスが観客動員のためにどのような戦略をとったかが、事例として書かれています。

この本で紹介されているのは、2005年の球団創設の初年度から観客動員数を増やし、球団経営として黒字化を達成したのは、どのような戦略だったかです。

以下は本書からの引用です。

まず観客動員数を増やすことが球団運営にとって最重要課題でした。そこで、彼らはあることを捉え直したのです。それが 「競合」 です。

楽天イーグルスは、他球団ではなく、平日の夜の時間を奪っている居酒屋をライバルとしたのです。

楽天イーグルス担当者は、仙台の夜の街に出ていき、仕事帰りの人たちはどんな夜を過ごしているのかを徹底的にリサーチしました。わかったことは、他の地方よりも繁華街が盛り上がっていて、居酒屋も繁盛していることでした。仙台のサラリーマンたちは居酒屋で同僚とワイワイしゃべって飲んで楽しんでいたのです。

この居酒屋で楽しんでいるサラリーマンに、球場に行くことの価値を感じてもらう必要がありました。サラリーマンたちにあったのは、「ワイワイ飲みながら語り合いたい、笑い合いたい」 というニーズでした。ただ、野球観戦に行ってしまうと座席も横一列ですし、しゃべりづらい。

そこで、大相撲のマス席のような 「居酒屋シート」 をつくり、観戦席を 「野球の試合 "も" やっている居酒屋」 へと変えてしまったのです。

 「野球を観戦するための球場づくり」 という観点からすると、バッターボックスに背を向ける人が出るこのような施策は、ふざけるなと言われるかもしれません。しかし、競合を考えるときわめてリーズナブルな打ち手だったのです。

 「 (野球より) コミュニケーションの場所が欲しい」 という本音と、競合を 「居酒屋」 と捉え直して重なりをつくった結果、居酒屋に行く予定だったサラリーマンという新しいターゲットの獲得に成功し、初年度から黒字化という偉業を達成したのです。

 (引用:問題解決ドリル - 世界一シンプルな思考トレーニング)

 

顧客視点での競合設定と差別化

自分たちのメインターゲット顧客 (球場に足を運んでほしい人たち) に対して、「競合は誰か」 を再定義し、競合を居酒屋と捉えたのが興味深いです。

ターゲットユーザーの理解

メインターゲットであるサラリーマンが平日の夜に何をしているのかを、楽天イーグルスの担当者は実際に街に出かけ調査をしました。調査からわかったのは、他の地方よりも繁華街が盛り上がり、居酒屋も繁盛していることでした。

ターゲットであるサラリーマンの立場で考えれば、平日の夜に同僚や知人など飲んで話したいと思ったときに、行こうと思う選択肢は居酒屋などの外食店です。楽天イーグルスが考えたのは、選択肢に野球場も含めることができないかでした。

サラリーマンが平日の夜に何をしているのかの調査から見出した示唆は、「ワイワイ飲みながら語り合いたい、笑い合いたい」 というニーズがあることでした。

観客への提供価値

ここからのアイデアとしておもしろいのは、野球場の観客席に対面式のボックスシートを導入したことです。これは思い切った発想です。

というのは、通常は野球場に来たお客に提供するのはリアルな野球の試合で、ビールやおつまみなどの提供はサブだからです。対面式ボックスシートで、ワイワイ飲みながら語ってもらうアプローチは、従来の主従関係を逆転させています。

楽天イーグルスがターゲット顧客に提供したのは、「野球の試合 "も" やっている居酒屋」 でした。

同僚や知人同士で語り合いたいというニーズを持っていると想定し、野球観戦は必ずしも主役ではなくてもよいと割り切りました。同僚と飲んでしゃべり騒げる場所をメインに提供したのです。

 

楽天イーグルスの戦略からの学び

今回の楽天イーグルスの事例から学べることを考えます。

顧客視点での競合設定

1つ目は、顧客の立場で考えるという顧客視点での競合設定です。

自分たちの競合を捉えるときに大切な視点は、競合はターゲット顧客の頭の中にあることです。競合を自分たちの提供者視点で勝手に設定するやり方ではありません。

自分たちの顧客になって欲しい人たちが、何かをしよう・どこかへ行こう・何かを買おうと思う時に、頭の中に思い浮かぶ選択肢が競合という考え方です。楽天イーグルスの場合は、サラリーマンが平日の夜に行きたいと考えた時に、有力な選択肢は居酒屋でした。

強みとメッセージ

2つ目は、顧客視点で 「強み」 をどう見出し、自分たちはそれをどう実現し、そして顧客に伝えるかです。

顧客の立場で考えた時の強みとは、何かをしたいと思った時に浮かぶ選択肢の中から、自分たちが選ばれる理由です。

楽天イーグルスの場合は、サラリーマンが平日夜に行く選択肢の中で、居酒屋ではなく球場が選ばれるための強みは、飲んだり食べて同僚とワイワイでき、かつリアルな野球を観戦できることです。これが居酒屋に対する差別化であり、球場に行く理由 (居酒屋ではなく自分たちの強み) です。

楽天イーグルスから学べる戦略立案プロセス

1つ目の顧客視点での競合設定、2つ目の顧客視点での強みを併せて考えると、次のようなプロセスで戦略をつくることになります。

  • 自分たちのお客になってほしい人は誰かを決める (ターゲット顧客の設定)
  • ターゲット顧客が頭に思い浮かべる選択肢は何か (競合の設定 = マーケットの設定)
  • 自分たちは顧客に何を提供するか (提供価値)
  • 提供価値を実現するために、具体的に何をするか。それは競合と差別化されており、顧客が競合ではなく自分たちを選ぶ理由 (強み) になっているか


東北楽天ゴールデンイーグルスが、観客動員数を増やすという目的に対してとった戦略は、野球場の常識をくつがえすものだったのかもしれません。しかし、ターゲットとなる顧客の立場から見れば、主従を逆にする発想こそが理にかなっていました。

競合をターゲット顧客の頭の中にあるものから再定義し、居酒屋に対して自分たちは何を提供して強みとするかです。

根拠になっていたのは、楽天イーグルスの担当者が実際に街の出かけた調査も含まれていたことも興味深いです。

 

問題解決ドリル