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世界の経営学者はいま何を考えているのか (入山章栄) 。興味深かったテーマ 「両利きの経営」 が示唆深い

今回は、世界の経営学者はいま何を考えているのか - 知られざるビジネスの知のフロンティア という本についてです。

 

 
エントリーの内容です。

  • 本書の特徴
  • 興味深かったテーマ 「両利きの経営」 について
  •  「両利きの経営」 から個人のビジネスキャリアへの示唆

 

本書の特徴

本書に書かれているのは、競争戦略やイノベーション、グローバル経営などについて、経営学が今どんな研究テーマで取り組まれているのかです。わかりやすく紹介されています。

タイトルに 「世界の経営学者は」 とあるように、取り上げられている研究内容は、日本ではあまり目にすることの少ないものばかりでした。

ここに著者の執筆動機があります。世界の経営学者で議論されている内容が日本人には馴染みのないものが多いそうです。そこで、本書を通じて世界の経営学の知のフロンティアに触れてほしいという著者の思いからです。

 

興味深かった研究テーマ

本書で紹介されている経営学イノベーションの研究で興味深かったテーマは、「両利きの経営」 でした。

企業がイノベーションを実現するために、右手だけではなく左手が利き腕であるかのように行なう企業経営です。

 

両利きの経営とは

両利きの経営は、企業が2つの方向性を同時に進める経営です。2つとは、イノベーションのための 「知」 について、新たな探索と深化です。

  • 知の探索:企業が知の範囲を広げるために新しい知を探す行動。経営学では Exploration と呼ぶ
  • 知の深化:持っている知識に対して理解を深め、時には改良を重ねるプロセス。経営学では Exploitation と呼ぶ


興味深いと思ったのは、どちらか一方に偏りすぎてはだめで、2つのバランスが大切であるという経営学での研究結果でした。これが 「両利きの経営」 と呼ばれる所以です。

 

 「知の探索」 は怠りやすい

もう1つ興味深いのは、同じ研究において、企業組織は中長期的には 「知の深化」 に偏りがちで、「知の探索」 は怠ってしまう傾向がある、と発表されていることです。

これは納得いく結果です。「知の探索」 という、新しいことへの挑戦は骨が折れるわりに、すぐに成果が出ない、あるいは成果が見えにくいからです。

新しい情報が見つかるは不透明で、発見があったとしても本当に自分たちの役に立つのかもすぐにはわかりません。事業や専門領域の外に視野を広げる必要もあり、負担も大きくなります。

従って、企業は新しい知を探すよりも、すでにある知を改善する・深めるという 「知の深化」 に本質的に流れる傾向があります。

企業業績が好調な時ほど顕著です。例えばヒット商品が出るとその改良商品には注力するが、全く新しい商品を手がけるインセンティブが低くなります。

当面の事業が成功するほど、新しい知の探索を怠りがちになります。中長期的なイノベーションが停滞するというリスクが企業組織には内在しています。

 

 「両利きの経営」 は個人のビジネスキャリアに示唆がある

両利きの経営のポイントは、「知の探索」 と 「知の深化」 をいかにバランスよく行なうかです。企業は本質的には知の深化に偏る傾向があるという話は、企業組織だけではなく、個人レベルでも示唆に富みます。

例えば自分の知識・能力や技術を高めたいと考える場合です。有効なのは今ある能力をさらにレベルの高いものにすることです。自分の専門性を高める方向で、両利きの経営でいう 「知の深化」 にあたります。

一方で、今ある能力を高めるだけでは、専門性は深まっても、広げることにはなりません。新しい知識や技術のためには、既存領域ではない範囲に視野を広げる必要があります。つまり 「知の探索」 が求められます。

短期的には 「知の深化」 をやっていれば、自分の成長が感じられます。しかし、中長期で見ると、どこかで行き詰まる時がきます。

連続的な成長はできても、非連続なジャンプアップのためには 「知の探索」 が重要です。個人においても 「両利きの経営」 の考え方は示唆があります。