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失敗の本質 - 日本軍の組織論的研究。日本軍の失敗の本質が、現代のビジネスに問いかけるもの

失敗の本質 - 日本軍の組織論的研究 という本には、現在にも示唆に富む日本軍の敗戦が詳細に分析されています。

 

失敗の本質

失敗の本質

 

 

今回は、本軍と米軍の違いから、ビジネスへの示唆に富む失敗の本質を掘り下げます。

エントリー内容です。

 

本書が取り上げる失敗の論点

本書が扱うのは、戦い方の失敗です。

開戦後の戦争遂行の過程において、各作戦でなぜ敗北を喫したのかです。論点として扱わないのは、なぜ無謀とも言える大東亜戦争に突入したのかの開戦の意思決定プロセスです。

本書の狙いは、日本軍の失敗を現代の企業等の組織への教訓にすることです。大東亜戦争における日本軍の諸作戦の失敗を 「組織としての日本軍の失敗」 と捉え直し、反面教師として活用することです。

なお、本書は、太平洋戦争でなく大東亜戦争と表記しています。理由は、戦場が太平洋に限定されなかったからです。

 

日本軍の失敗の本質

なぜ日本軍は失敗したのでしょうか?

本書で指摘されている日本軍の失敗の本質は、次のように書かれています。

日本軍の最大の失敗の本質は、特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎて学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった、ということであった。

 (引用:失敗の本質 - 日本軍の組織論的研究)


現在の日本にもそのまま当てはまる、示唆に富む結論です。この失敗の本質は、前半と後半で2つに分けられます。

  • 特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎた
  • 学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった


現在のビジネス用語で表現すれば、前者は 「ガラパゴス化した」 、後者は 「イノベーションを起こせなかった」 となります。

以下、それぞれについて具体的に見ていきます。

 

日本軍の失敗の本質 1:
日本軍はガラパゴス化した

日本軍の失敗の本質である 「特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎた」 とは、今で言うガラパゴス化です。

当時の日本軍が、特定の戦い方に徹底的に適応していった例の1つは敵機を発見するレーダーです。

日本軍は、人の能力を徹底的に鍛え上げる戦略でした。猛特訓を続け、兵士の射撃精度を極限まで追求しました。

射撃兵への日本の厳しい特訓は、月月火水木金金と表現されました。土曜と日曜が抜けているように、訓練は1日も休むことなく行われました。見張り員の視力も驚異的で、開戦当初は米軍への夜間の先制攻撃で実際に成果も挙げました。

日本軍の戦い方は徹底的に兵士の技能を上げ、達人をつくりあげることでした。

米軍の方向性は全く逆でした。兵士の敵軍の発見能力や射撃能力を高めるのではなく、レーダーを早くに開発し導入しました。人ではなく機械に舵を切ったのです。

レーダーにより、たとえ夜間だろうが兵士の超人的な視力に頼らずとも、敵を捉えられる戦い方に変えました。米軍は、人ではなく機械がやるという全く違う発想を持ち込んだのです。一方の日本軍は既存の戦い方を追求しました。

日本軍は特定の戦略に徹底的に適応しすぎた結果、ゲームチェンジを起こせませんでした。相手にルールを大きく変えられると、なす術もなく敗れていったのです。

 

日本軍の失敗の本質 2:
イノベーションを起こせなかった

日本軍の失敗の本質のもう1つ 「学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった」 とは、イノベーションを起こせなかったということです。

成功体験にとらわれ、自己革新ができなかった

自己革新能力とは、本書では環境変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変える能力としています。日本軍は環境が構造的に変化しているにもかかわらず、主体的な変革のための自己否定的学習ができなかったのです。

これまでの成功体験にとらわれ、環境変化に気づかず、自己革新ができませんでした。

日本軍と米軍のアプローチの違い

例えば、日本の戦闘機である零戦です。零戦は、かつては高い飛行性能を誇り、空中戦で圧倒的な勝利を収めていました。

零戦の特徴は、航続力とスピードがあり、高い戦闘能力でした。戦闘機としての攻撃力を重視するために防御性能を犠牲にし、可能な限りの形象化で飛行能力を高めていました。操縦士を猛特訓で鍛え上げ、射撃精度を極限にまで追求しました。

対する米軍は、全く別のアプローチを取りました。具体的には2つです。

1つめは、零戦一機に対して戦闘機を二機で一組にするという戦い方を変えたことです。二機のうち一機をあえて零戦から狙わせ、その間にもう一機が零戦を狙える位置に移動し撃墜したのです (サッチ・ウィーブ戦法) 。

2つめは、新しい戦闘機 (グラマン F6F) の開発です。新しいというのは、重視した戦闘機の機能の違いです。零戦が攻撃力を重視し軽量で高い旋回性能を持っていたことに対して、米軍は零戦よりも高いスピードと防御という重装機を目指しました。

イノベーションを起こせなかったのは、前述のレーダーでも見られました。

実は当時の日本軍もレーダーの開発は実施しており、技術レベルも米軍とあまり遜色がなかったとのことです。

しかし、レーダーの有用性を軍部が理解できず、レーダーは採用されませんでした。敵軍を発見したり射撃するのは人ではなく、レーダーがするという環境変化を理解できず、適応できなかったわけです。

学習スタイルの違い

自己革新能力とは、自己否定をすることです。時にはこれまでの成功体験を捨て去ることも必要でしょう。

本書での興味深い指摘は、日本軍と米軍の学習スタイルの違いです。日本軍の学習スタイルは 「シングルループ」 、アメリカ軍は 「ダブルループ」 と表現します。

  • シングルループ (日本軍) :目標や問題構造が変わらないとしたうえで進める学習プロセス
  • ダブルループ (米軍) :学習の目標や問題そのものを再定義し、変革することもいとわない学習。環境に適応するために、変化する現実を直視しながら修正する主体的な学習スタイル


この学習スタイルの違いが、日本軍とアメリカ軍の自己革新能力の差につながりました。

自己革新が必要なのは環境が変わるから

なぜ自己革新が必要なのでしょうか?

理由は環境が変わるからです。環境が変わらない、競争相手がいないのであれば、それまでの成功体験を捨てなくともよいでしょう。

しかし、環境は常に変わります。それに合わせて自らも変わらなければいけません。ダーウィンの進化論では、「強い者ではなく、環境に適応した者が生き残る」 と言われました。

 

日本軍の失敗の本質を活かすために

本書では日本軍の失敗の本質を 「特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎて、学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった」 と言います。ガラパゴス化に陥り、イノベーションが起こせなかったのです。

特定の戦略や戦い方に固執したから自己革新ができませんでした。自己革新ができなかったからこそ、今のやり方に固執してしまったとも言えます。

現在の私たちが、失敗の本質から学べることです。

 

失敗の本質

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