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満員電車がなくなる日 - 鉄道イノベーションが日本を救う (阿部等) 。満員電車の問題を解決する着眼点

満員電車について書かれた本をご紹介します。

 

満員電車がなくなる日 改訂版

満員電車がなくなる日 改訂版

 

 

エントリー内容は以下です。

  • そもそもの満員電車の問題
  • 書籍 「満員電車がなくなる日」
  • どうすれば満員電車をなくせるか

 

満員電車を避けるためにできること

電車で通勤をする場合に私が考えることは、満員電車をどう避けるかです。自転車などそもそも電車を使わないケースを除き、満員電車を避けるためには2つです。

  • 混んでいる路線を使わない
  • 混雑する時間帯を避ける

 

1つめは、住む場所と働く場所によるので、ある程度は固定されてしまいます。2つめは、朝は少し早くまたは遅く出社する、帰宅時刻もピークを避ければ混雑する時間帯をずらせます。

 

本来、満員電車はあること自体がおかしい

電車の需要と供給で考えると、「混んでいる路線を使わない」 と 「混雑する時間帯を避ける」 ともに、電車への需要からの観点です。

そもそも満員電車は、需要が供給を大幅に超えた状態です。需要と供給の関係で電車を使いたい人 (需要) が、電車側で想定している乗客数 (供給) を大幅に上回っている状況です。

見過ごされがちな前提は、供給量がこれ以上は増えないことです。満員電車の問題は、需要と供給で考えると実はおかしいことです。

資本主義社会であれば、本来は需要と供給のどちらかが多い場合、いずれは需要と供給は均衡点で一致します。供給量を変える、需要の増減、価格調整などによってです。

しかし、満員電車は、需要 > 供給の状態が日本では何年も続いていて、日常の光景になっています。

 

書籍 「満員電車がなくなる日」

満員電車をどうすれば解消できるかが詳しく書かれているのが、満員電車がなくなる日 - 鉄道イノベーションが日本を救う という本でした。

本書の特徴は、満員電車をなくすために、供給をどう増やすかに視点を置いていることです。乗客収容数です。

 

電車の供給 (乗客収容数) を増やす3つの視点

乗客収容数を増やすために大きく3つ書かれています。これらを抜本的に見直すという内容です。

  • 運行方法
  • 運賃の仕組み
  • 運転士免許制度の規制改革などの制度

 

本書は、満員電車が私たちの生活の中で当たり前になってしまっていて、どうすればなくせるかが思考停止になっていた頭を刺激してくれます。

冒頭で書いた 「混んでいる路線は使わない」 や 「混雑する時間は避ける」 のような個人レベルで需要を調整するのではありません。仕組みとして、どうすれば満員電車を解消できるかです。多い需要に対してどのように供給を増やせるかです。

以下、満員電車をなくすための 「運行方法」 と 「運賃の仕組み」 についてご紹介します。

 

1. 満員電車をなくす運行方法

電車において供給量を増やすとは2つです。電車の本数を増やす、電車当たりの乗客数を増やすことです。本書で紹介されている供給を増やす案はユニークな考え方です。

電車の本数を増やす

電車の本数を増やす例で、現行の信号システムの改良が提唱されています。

信号システムにより、電車全体の運行が制御されているという恩恵があります。一方で、信号システムが電車本数の増加を実現する上で、ボトルネックになっていると指摘します。信号システムの向上により電車の本数が増やせると著者は言います。

現在使われている信号システムは、1964年の東海道新幹線の開業当時から基本機能はほとんど向上していないそうです。

新しい信号システムの詳細は割愛しますが、信号システムをより高度なものにすれば、電車の本数増が期待できます。例えば、現在は2分間隔で電車が来るのが、1分間隔にできる、などです。

電車本数増で考えるべき視点で、電車発着の遅延をどう防ぐかも重要です。

駆け込み乗車によって起こる一度ドアを閉めた後にもう一回開く光景はよくあり、積み重なれば電車は遅れます。

ある電車が遅れると、その前後の電車にも影響します。運行が調整され電車システム全体で見ると運行効率が下がります。

電車遅延への影響がもっと大きなものは、人身事故、天候、信号トラブルです。これらを解決する仕組みがないと、新しい信号システムを導入して本数を増やせたとしても、電車遅延の影響がより大きくなってしまいます。

電車当たりの乗客数を増やす

電車の供給量を増やすために、電車当たりの乗客数を増やす方法についてです。

本書の提案で印象的だったのは、2階建電車の導入です。単純に考えると、電車を2階建てにすれば、受け入れられる乗客数は2倍になります。

実現のためには多くの課題があると思いますが、発想としてはおもしろいです。

電車だけ2階、乗り降りの駅が1階だと、電車内で1階から2階に上がり下りをしないといけない不便が発生します。ホームから2階建ての電車に乗るためには、駅の改良工事が必要です。全駅についてです。

地下鉄であれば、地下の空間を路線や駅ともに広くしないとそもそも走れません。また、架空電車の場合、電車用の電線も2階建ての分だけ上に上げることになります。

 

2. 満員電車をなくす運賃の仕組み

運賃の仕組みを見直すことも、考えさせられました。

新幹線や一部の特急列車を除き、現状の電車の運賃は移動距離で決まります。距離が長いほど運賃は高くなります。

電車内の快適さについての運賃は、一部で予約席やグリーン席があるものの、通勤電車に使われる一般的な電車では、車内の状態による運賃の違いはありません。座席に座っても立っていても、空いた電車でも満員電車でも、運賃は変わりません。

座席に座れるかどうかはその時の運です。空いている状況や、たまたま目の前の人が降りたので自分が座れたり、優先席を譲ってもらえるかどうかは時と場合によります。

本来であれば、移動中の提供サービスが加味され、それに合わせた価格体系が望ましいです。より快適に移動したいなら、少し高い運賃でも良いというニーズはあるでしょう。

普通の電車や地下鉄でも、もっと柔軟な運賃設定ができれば需要と供給がもっと動くはずです。

通勤ラッシュというのはそれだけその時間帯に電車を使いたい人が多いので、需要が増えるのであれば価格を上げる、逆に空いている時間帯は価格を下げる、座席に座る人には立っている場合よりも快適なので、その分を価格に反映します。

本書には、自由度の高い価格設定のために、スイカなどの IC カードがうまく使えると提案されています。例えば座席に IC カード読み取り装置をつけ、カードをかざして座席使用の料金を支払えば、座席が降りて座れるようになるというものです。

実現へのハードルはいくつもありそうですが、実験的に一回やってみてほしいです。

 

満員電車という社会問題を解決するために

本書で明確にしている仮説は、満員電車の歴史は 「運賃抑制の歴史」 です。もし、電車の商品価値とコストに応じた運賃設定が可能になれば、財源確保ができ満員電車をなくせる、というものです。

運賃が低いために、多くの人が電車を気軽に利用できることは、社会全体で見ると大きなメリットです。一方、自由度のない運賃設定で、なおかつ低い運賃体系により、満員電車が慢性的に発生しているという考え方が本書の根本にあります。

満員電車というのは混んでいる分だけ一度の電車で運べる乗客数が多いということです。人を移動させるという観点だけを考えれば低コストで効率的な仕組みです。しかし、乗っている側からすると、あれほど非生産的な時間はありません。

満員電車は社会問題の1つです。少しでも問題が解決された社会にするためにはどうすればよいかです。満員電車がなくなる日 - 鉄道イノベーションが日本を救う という本は考えるきっかけを与えてくれます。

 

満員電車がなくなる日 改訂版

満員電車がなくなる日 改訂版