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シニアシフトの衝撃 (村田裕之) 。有望な市場とビジネスモデルを考える着眼点

シニアシフトの衝撃 という本をご紹介します。

 

シニアシフトの衝撃

シニアシフトの衝撃

 

 

エントリー内容です。

  • 飽和しているのは市場ではなく、私たちの頭の中
  • コト消費とモノ消費を連動させるビジネスモデル
  • シニアビジネスの垂直展開と水平展開

 

飽和しているのは市場ではなく、私たちの頭の中

本書で書かれている有望なシニア市場とは、ユーザー側では何かが変化しているにもかかわらず、旧態依然とした不便や不満が多い領域です。

例えばスマホです。

スマホは若年層の利用が多いと思いがちですが、シニア層にも広がっていま。

タブレットも同様です。画面サイズが大きく文字を拡大表示できるタブレットのほうがシニアには魅力でしょう。シニアでのスマホ/タブレットへのニーズは増えるというユーザー側では変化が起こっています。

しかし、現状ではこのようなニーズの高まりに十分に対応できていません。富士通らくらくホンはありますが、60代以上向けユーザーに特化したスマホタブレットがもっとあってもいいでしょう。

せっかく興味があって使ってみたいと思っているのに、受け皿が用意できていません。

このように、消費者やユーザーの変化に対し、提供側がキャッチアップできていないのです。結果、ユーザー側では顕在的・潜在的に不満や不便を感じています。

ここに商機があります。

既存の市場は一見すると飽和しているように見えても、そうではありません。ユーザーの価値観が多様化しているニーズに対応できていないため、まだまだ「不」が存在します。その不を解決する商品・サービスが提供できれば、有望な市場になります。

考えさせられる指摘だったのは、一見すると飽和しているがまだそこにはフロンティアがあるというものです。

本書で印象深かった言葉が「飽和しているのは市場ではなく、私たちの頭の中である」です。提供者側に固定観念があって市場が飽和していると決めつけてしまい、新たなニーズに対応できていない状況です。

シニアビジネスの観点で言うと、30・40代から見ると何でもないことも、高齢者にとっては不安・不満・不便を感じているケースがいくつか書かれていました。例えば、以下です。

  • 老眼の進行:お年寄りの身体機能の低下により不便が発生する。店頭での値札・商品説明・POP 等の文字が小さく、老眼になった高齢者には読みづらい。結果、販売機会ロスにつながってしまう
  • 脚力の衰え:年齢とともに筋力が落ちるので、フロアのちょっとした段差に足をつまずきやすい。エスカレーターのスピードが年配者には早すぎる。なるべく歩く距離を短くするような動線の効率化ができていない
  • 聴力低下:年齢を重ねると聴力が低下する。売り場での商品説明が聞き取りにくい。店側は明瞭な発音やわかりやすい説明が求められる。店内のBGM音量や選曲にも配慮が必要
  • 頻尿:高齢者には頻尿症状が多い。買いものの途中でトイレに行きたくなっても、近くにない。またはトイレへの案内がわかりにくい。トイレ自体も汚かったり使いにくかったりすると、店への印象が悪くなる。最近の過度に自動化されたトイレの使い方が高齢層にはわかりにくい
  • 認知機能の低下:年を取ると一般には記憶力や認知力が低下する。商品の説明において色々と効果を羅列すると印象が残らない。それよりも「骨が丈夫になる」など1点に絞って訴求するほうが効果的


シニア層の身体の変化は若い人にはなかなか想像しにくいものです。だからこそ、購買行動にどう影響するかを考え、売り場やサービスに反映することが大切です。

有望なマーケットを考える上で、本書でもう1つ印象に残っているのが「ビジネスは非合理の中に商機あり」です。

シニアへの上記の「不」への対応をしようとすると手間もかかり、コスト増要因になります。非合理に見えることでも、きめ細かい対応を地道にやり続けることでシニアに魅力的に映ります。短期的ではなく先を見据えて取り組むことで、非合理は商機になるという考え方です。

非合理というのはこれまでの常識や慣習から、提供側が勝手にそう思っているだけなのかもしれません。過去の成功体験から非合理と思い込んでいるにすぎないのでは。「飽和しているのは市場ではなく、私たちの頭の中である」に通じます。

 

コト消費とモノ消費を連動させるビジネスモデル

本書がおもしろかった2つ目のポイントは、ビジネスモデルです。その市場でどうやってお金を稼ぐのか、どんな価値を提供し、何に対してお金を支払ってもらうのかです。

例えば、なるほどと思ったのが「コト消費」と「モノ消費」をどう連動させるかについてです。モノ消費という「商品の消費」に対して、コト消費とはモノ消費以外の「時間の消費」を指します。

2つがうまく組み合わさっている例で紹介されていたのは、スーパー銭湯です。具体的な利用シーンは以下です。

  • スーパー銭湯へ行くと入場料を払い、まずはお風呂に入る
  • お風呂から上がりと喉が乾いているのでビールを1杯、つまみも欲しくなって買う
  • マッサージをしてもらったり、人によっては施設内の理髪店に入る
  • 一通り終わるともう一回入浴へ


スーパー銭湯に来て時間を使ってもらうだけではなく、一連の流れの中に、それぞれお金を使ってもらう仕掛けがあるのが特徴です。

東京ディズニーランドなどのテーマパークも同じです。入場料を払ってもらって終わりではなく、園内での食事やイベントで課金があり、最後にはお土産を買ってもらう流れです。消費が連動し、1つ何かを買うとそれが次の消費につながります。こうした消費の連鎖設計がよくできているケースです。

銭湯やテーマパークは維持管理のコストがかかり、それ単体では収益が上げにくいです。お金を稼ぐのは、入場料以外のプラスアルファの部分です。いかに連携させお客さんに楽しんでもらうか、提供者側にとってはお金を払ってもらえるかです。

 

シニアビジネスの垂直展開と水平展開

日本はすでに少子高齢化が現実となり、総人口が減っていく時代になっています。少子高齢化は今後、世界でも起こっていくことがわかっています。

見方を変えれば、日本は今後の世界共通課題にいち早く取り組んでいるという状況です。日本は課題先進国であり、望ましいのは課題を持っているだけではなく積極的に取り組み解決もしているという課題解決先行国です。

シニアビジネスで可能性を感じたのは、企業にとってはタテとヨコに展開できるチャンスが目の前に広がっているということ。

タテというのは、これまではシニア層はターゲットではなかった企業も、人口動態がシニアシフトが確実に起こる国内ではシニア対応を迫られます。ターゲットの年齢を上げるという垂直展開が必要で、これを機会と見るか脅威と捉えるかです。

機会と位置づけて取り組み、有望な市場を見極め持続可能かつ収益力のあるビジネスモデルが築ければ、チャンスです。

ヨコは、課題先進国の日本において、垂直展開で培った経験・ノウハウ、商品/サービスは、今後同じ課題が発生する他国にも展開できる武器になります。これがシニアビジネスをヨコに広げる水平展開です。

日本、そして世界のシニアシフトが起こる中、それを活かすも殺すも、捉え方次第です。

 

最後に

シニアシフトの衝撃 はシニアビジネスについてよくまとまっています。

単にシニア向け市場が有望という表面的な話ではなく、シニアシフトの現状がどういう構造になっているか、具体的なシニア層の不(不安・不満・不便)、有望な市場、ビジネスモデルや商品/サービスの事例、今後のシニアビジネスの可能性までです。

本書ではシニアシフトの事例がいくつか紹介されています。

  • リカちゃん人形に「おばあちゃん」が登場
  • ゲームセンターはシニアの遊び場に
  • 平日昼間のカラオケ客の6割がシニア


「シニアシフトの衝撃」という本がおもしろかったのは、シニアビジネスの現状や今後を紹介するだけではなく、具体的にどういう市場に目を向ければよいかの着眼点と、どんなビジネスモデルに可能性があるかまで、踏み込んで書かれている点でした。

 

シニアシフトの衝撃

シニアシフトの衝撃