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こころの処方箋 (河合隼雄) 。中学生の質問を頭ごなしに否定した先生を反面教師に

こころの処方箋 という本に、生徒の質問を頭ごなしに否定した教師の話が書かれていました。このエピソードから、ビジネスへの示唆を考えます。

 

こころの処方箋(新潮文庫)

こころの処方箋

 

 

エントリー内容です。

  • 時には権力を捨てることが大事
  • ビジネスへの示唆

 

権力を捨てられるか

こころの処方箋 という本に、「権力を棄てることによって内的権威が磨かれる」 というテーマが書かれています。

本書から、引用します。

日本人は権力ということを嫌うあまり、権威アレルギーと言っていいほどの傾向があるように思われる。権力と権威とは区別して考えた方がいいと思うのだが、両方ごっちゃにして嫌い――というのが日本人の在り方である。

 (中略)

中学生の先生は生徒に対して、自分が教える教科については 「権威者」 であるべきと思われている。

ところで、生徒の誰かが質問をして、その考え方が意表をついているため、教師が困ってしまうときがある。そんなときに、「馬鹿な質問をするな」 と頭ごなしにそれを無視しようとすると、生徒は黙ってしまうかも知れない。

このとき、教師は権力によって自分の権威を守ったつもりでいるのだが、生徒からすれば、教師の権威が失墜したことは明瞭なのである。

このようなとき、まず、教師として持っている権力を棄ててかかることが大切だ。権力を行使せずにそれに当るとすると、どんな結果が生じるだろう。

「君の質問は面白いが、今すぐには答えられない。来週までに考えてくる」 と言って、次週にそれなりの答をすると、権力を行使することなく、自分の権威を守ったことになるし、ひょっとして、その権威は高まったことになるかも知れない。

 (引用:こころの処方箋)

  

ビジネスへの示唆

先生と中学生の質問のやり取りは、自分が子どもの頃、そんな先生がいたと思い出されるかもしれません。この権威の話はそれだけにとどまらず、示唆に富みます。

例えば、自分の担当範囲や専門領域のことを、同僚、取引先のお客さんやクライアントに説明するケースです。

自分の専門分野なので、相手に伝える内容にはプロフェッショナルとしてのプライドがあります。そこに、相手からは自分が思ってもみないことへの質問や指摘が入ったとします。自分とは専門領域が異なる相手ほど、想定していない指摘や本質的な質問だったりします。

その時に、自分はどう反応するかです。さすがに 「馬鹿な質問をするな」 とは言わないでしょうが、質問や指摘をぞんざいに扱ったり、無視するような態度を取れば、その相手はどう感じるでしょうか。

先生と中学生に間で起こる、「教師は権力によって自分の権威を守ったつもりでいるのだが、生徒からすれば、教師の権威が失墜する」 と同じ状況になりかねません。

そうではなく、中学教師が 「君の質問は面白いが、今すぐには答えられない。来週までに考えてくる」 と言って、次週にそれなりの答をするような行動が、自分もできるかです。

  • 想定していないような質問に正面から受け止める。わからないことには 「今は答えられない」 と正直に告げる (その場であいまいな答えをしない)
  • 質問を持ち帰って対応する
  • 後日、相手に答えや見解を伝える


その分野のプロフェッショナルとは、権威者であることです。自分はその領域のプロだからこそ、相手の質問をないがしろにしない姿勢が望まれます。

中学校の先生と生徒のエピソードは考えさせられるものでした。

 

こころの処方箋(新潮文庫)

こころの処方箋