「欲しい」 の本質 - 人を動かす隠れた心理 「インサイト」 の見つけ方 (大松孝弘 / 波田浩之) 。インサイトの why, what, how がわかりすく書かれた本
「欲しい」 の本質 - 人を動かす隠れた心理 「インサイト」 の見つけ方 という本をご紹介します。
エントリー内容です。
本書の内容
以下は本書の内容紹介からの引用です。
人は、自分が欲しいものを説明できない。
消費者は、商品を見せられて初めて、「欲しい」 かどうかを感じます。既にいまの時代、消費者に直接聞くことで分かるニーズは充たされており、これまでの延長線上のモノ・サービスでは 「欲しい」 と思われずに、売れない時代になっています。
これらを解決するのが、人を動かす隠れた心理 「インサイト」 です。閉塞的な状況にイノベーションを生み出し、新たなアイデアを生み出す武器といえます。
本書では、このインサイトの定義、見つけ方に留まらず、どうやってビジネスで生かすのかといった実践までを、豊富な事例とともに解説します。著者が600件以上の案件で培った、そのフレームワーク、メソッドを体系的に公開しています。
なぜインサイトが必要なのか
2018年現在の日本は、多くのカテゴリーにおいて市場が成熟化した社会です。今の時代の商品であれば、買って不満を感じるレベルのものはほとんどありません。
本書では 「だいたい良いんじゃないですか?時代」 と表現します。
市場が成熟化すると、「自分はこれが欲しい」 と強く思えるような商品に出会う機会が減ります。どの商品も可もなく不可もなしです。
本書の主張は、こうした環境でこそ、人々の隠れた欲求に答える必要があるというものです。キーワードは 「インサイト」 です。
インサイトとは何か
本書で定義されるインサイトは、「人を動かす隠れた心理」 です。
ポイントは、隠れているということです。人が普段は意識していない、自分自身でも気づいていない無意識の領域にある心理です。インサイトは、表面的な行動や振る舞いの奥にある価値観や心理です。
インサイトでないもの
インサイトとは何かを知るには、「インサイトでないもの」 と併せてみると、理解が進みます。
ニーズではない
1つ目はインサイトとニーズの区別をすることです。ニーズとインサイトの共通点は、人を動かすものです。しかし、違いがあります。
ニーズとは、本人が明確に認識している欲求です。すでに顕在化された心理です。一方、インサイトとは普段は隠れている意識されていない心理です。
建前や意見・考えではない
2つ目は、インサイトは、表向きの建前や意見、考えではないことです。
例えば、インタビュー調査で調査対象者が語ったこと、アンケート調査で書かれた答えそのものは、インサイトではありません。インタビューやアンケートで、聞かれた人が考えて話したり記述した内容は、無意識のレベルではないためです。
アイデアではない
インサイトは、消費者が無意識に持っている気持ちや価値観です。アイデアとは、リサーチャーやマーケターが、自分たちのビジネスの文脈で見い出したインサイトをきっかけに思いついたり、創り出すものです。
どうやってインサイトを見い出すか
本書で書かれているインサイトを見い出す方法を読んで思ったのは、一言で言えば 「急がば回れ」 です。
インサイトは、人が普段は意識していないことなので、直接聞き出しても得られることはまずありません。例えば、商品やブランドを買わない理由を聞いても、返ってくる答えは表面的なものであったり、無理やり考えてつくり出された建前としての情報です。
人を見に行く
インサイトを得るための考え方で興味深いと思ったのは、「人を見に行く」 という考え方でした。商品に興味がある人や利用者に聞いたり見に行くのではなく、人間を知るという位置づけです。
人を見に行くとは、具体的にはその人の興味や関心に、寄り添うように理解することです。興味関心から、その人にとって何が価値なのか、その人にとってどういう意味があるのかを知ろうとします。
インサイトを読み解くヒントは、その人が意識しないで、やっている・言っていること、その背後にある人としての価値観や心情を理解することです。
インサイトは主体的に見い出すもの
インサイトを得るための姿勢として正しいのは、受け身ではなく主体的な態度です。インサイトは、人から聞いたり教えてもらうのではなく、能動的に自分たちでインサイトを見い出すものです。
調査から発言や行動などのファクトを知り、分析、気づきや考察を統合して、インサイトを見い出します。何か調査をすれば自ずと出てくるものではなく、自分たちで考え抜いて初めて得ることができます。
私の経験から、インサイトを得る際の感覚は、つくるというよりも、ある瞬間に自分の目の前に現れます。頭の中で色々と考え、ああでもないこうでもないと試行錯誤をした後に、突然降ってくるような、向こうから出てくる感覚です。
インサイトを見い出すための調査方法
本書で紹介されている、インサイトを得るための具体的な調査方法は、例えば以下の2つです。
- 投影法:写真や絵など別のものから、調査対象者に自分の心理に最も近いものを選んでもらう調査方法。感情を知ることができる
- 観察調査:調査対象者の行動や発言を観察する (エスノグラフィ調査) 。直接質問をするのではなく、観察によって理解する。行動や振る舞いを知ることができる
インサイトをどう活かすか
得たインサイトをどのように活用するかで興味深かったのは、「インサイト」 「バリュープロポジション」 「アイデア」 というフレームで考えることでした。
3つは、具体的には以下のようになります。
ディズニーランドに見るインサイトの事例
本書で紹介されていた 「インサイト」 「バリュープロポジション」 「アイデア」 の事例は、ディズニーランドでした。
1. インサイト
アメリカでディズニーランドができる前の遊園地は、子どものための場所と人々に思われていました。きれいではなくゴミが落ちていなくても、所詮は子どもが遊ぶところという認識でした。
大人の中でくすぶっていた気持ちは、「遊園地は子どもが楽しみ、大人が楽しむ場所ではない」 でした。しかし、大人が遊べる遊園地が欲しいという気持ちにまでは顕在化してませんでした。これがインサイトです。
2. バリュープロポジション
ウォルト・ディズニーが提案したのは、地上で一番幸せな場所 (The happiest place on earth) となる、「大人が夢中になれる場所」 という価値提案でした。
3. アイデア
そのための具体的なアイデアは、例えば以下の通りです。
- パークは外の空間と遮断されている。一歩踏み入れれば、現実を離れた夢の世界を再現
- バックヤードは見えないように設計され、来場者には舞台裏や関係者の空間は目に入らない
- ゴミひとつ落ちていない清潔な状態が保たれる
読んで思ったこと
本書を読んで思ったことです。3つあります。
1. インサイトの定義
読みながら考えさせられたのは、インサイトという定義そのものでした。
インサイトという言葉は私の仕事でも頻繁に出てきます。それでいて、使っている人によって捉え方が違うと感じます。
本書ではインサイトの定義を明確にします。「人を動かす隠れた心理」 です。
ポイントは普段は意識されず隠れているもので、本人すら気づいていないこと、言われたり提示されて初めてそうだと気づくようなことです。
2. インサイトを見い出すための姿勢
インサイトを見い出すためのマインドセットも考えさせられました。
今回のエントリーや本書で詳しく書かれているインサイトをのための調査や方法は、必要条件ですが、十分条件ではありません。
つまり、調査をしたからと言って、インサイトは手っ取り早く手に入るものではないのです。発言や行動の奥にある感情、価値観を深く理解し、それが自分たちのビジネスにとって何を意味するのかを、自らで主体的に見い出す必要があります。
3. 「人を見に行く」
もう一つ興味深かったのは、「人を見に行く」 という考え方でした。
自社商品やカテゴリーの購入者や利用者を対象に聞いたり見に行くのではなく、その人が普段何に興味を持っているのか、関心事は何か、彼ら・彼女らの興味関心に寄り添うように、人としての理解を努めることです。
上位レイヤーにある興味や関心と、自分たちでできること・提供するものを比べ、そこに生活者にとって価値となるものをつくりだせ、提供できるかです。
最後に
この本は、インサイトをどのように見い出すかを体系立てて説明しています。著者は過去に600件のインサイト調査を実施した方で、豊富な経験をもとにわかりやすく書かれています。
マーケティングを仕事にされている方には、発見が多く、実務で活かせるヒントが得られる本です。