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買い物客はそのキーワードで手を伸ばす (上田隆穂 / 兼子良久 / 星野浩美 / 守口剛) 。潜在意識から消費者インサイトを見い出すための質問方法と具体例

買い物客はそのキーワードで手を伸ばす という本から、潜在意識である消費者インサイトを見い出すための方法をご紹介します。

 

買い物客はそのキーワードで手を伸ばす

買い物客はそのキーワードで手を伸ばす

 

 

エントリー内容です。

  • インサイトとは何か
  • 潜在意識を知るための質問例
  • 三者の立場で答えてもらい、潜在意識を探り出す

 

インサイトとは何か

具体的な質問の解説に入る前に、インサイトについてご説明します。

インサイトとは一言で言えば、人を動かす隠れた心理です。消費者自身も普段は意識していませんが、気づかされれば行動を起こす気持ちです。

ポイントは、隠れているということです。日常生活で意識できていることは、インサイトではありません。すでに顕在化した気持ちや感情ではなく、潜在意識です。

インサイトでないものは、表向きの建前や意見・考え、すでに顕在化している不満です。

例えば、アンケート調査で回答者に直接聞いて出てきた回答そのもの、インタビュー調査で調査対象者が直接語ったことは、まだインサイトにはなっていません。インタビューやアンケートで、聞かれた人が考えて話したり記述した内容は、無意識のレベルではないためです。

 

潜在意識を知るための質問例

買い物客はそのキーワードで手を伸ばす という本には、アンケートでの定量調査で、インサイトを見い出すための潜在意識を知るための調査方法がわかりやすく解説されています。

興味深いと思ったのは、「あなたはどう思うか」 と直接尋ねるのではなく、第三者的な立場を設定してあげる方法です。

以下、具体例で 「第三者的な質問の仕方」 を3パターンご紹介します。

1. ○○ はあなたのことをどう思っていると思いますか?

本書ではハウス食品のシチューを例に、具体的に説明されています。物 (シチュー) を人にたとえてもらう質問と回答例は、以下でした。

 

質問:

 「ビーフシチュー」 が仮に意思を持っているとすれば、あなたのことをどのように思っていると思いますか?理由を含めて50字以上で自由にお書きください。

 

回答例:

 「忙しいときにしか使ってくれない」 と思っている

 「特別な日には私の出番」 と思っている

 

ビーフシチューは自分 (アンケート回答者) のことをどう思っているのかを考えることにより、ビーフシチューを潜在意識下でどのように扱っているのかが見えてきます。

回答例の1つ目 「忙しいときにしか使ってくれない」 は、「ビーフシチューはすぐに作ることができる料理」 や 「手抜きをしている後ろめたさを感じる」 ことが読み取れます。

2つ目 「特別な日には私の出番」 は、シチューは記念日などで食べたい料理であるものの、日常の献立にはなりにくいというイメージを持たれています。

2. ○○ を人間にたとえると、どのような人になりますか?

これも、物を人間にたとえて答えてもらう質問です。

 

質問:

 「ビーフシチュー」 を人間にたとえるとどのような人になるでしょうか?理由を含めて50字以上で自由にお書きください。

 

回答例:

上質なスーツをまとまった老紳士

太ってにっこりとしているお母さん

 

1つ目の回答例 「上質なスーツをまとまった老紳士」 から、回答者はビーフシチューのことを、「フォーマルな料理」 「あらたまった気持ちになって食べる」 というイメージを抱いていることがわかります。

3. 文章の空白を埋める質問

ユニークだと思ったのは、文章の空白を埋めてもらう質問です。

 

質問:

仮にあなたが 「ビーフシチュー」 になったとします。そんなあなたは大好きな恋人にフラれてしまいました。そのフラれ文句は、「ビーフシチューさん、あなたの (  ①  ) は大好きだったけれど、(  ②  ) が好きになれなかったんだ」 。

① と ② にはどのような言葉が入ると思いますか?それぞれ20字以上でお答えください。

 

回答例:

① (大好きだったこと):ワインが合うようなオシャレな雰囲気

② (好きになれなかったこと):毎日家で食べる気にはなれないところ

 

この回答者のビーフシチューへのイメージは、ビーフシチューには特別感があるものの、日々のおかずには使いにくいという不満を潜在的に感じていることが見えてきます。

 

三者の立場で答えてもらい、潜在意識を探り出す

アンケートから生活者の潜在意識を知るための質問と回答例を3パターンご紹介しました。いかがだったでしょうか?

重要なポイントなので繰り返すと、「あなたはどう思いますか」 と直接的にアンケート回答者本人のことを聞くのではなく、第三者の立場になって答えてもらうことです。

三者の立場とは、ビーフシチューを擬人化したように、ビーフシチューが自分 (アンケート回答者) のことをどう思っているかです。そのイメージから、回答者のシチューへの潜在意識を探り出します。

私自身もこの本を読んだ後に、実務の調査で第三者的な聞き方を取り入れてみました。

ウェブアンケートに、ある商品を人にたとえる質問を加え、自由回答で書いてもらいました (○○ を人間にたとえると、どのような人になりますか?) 。

結果は、興味深い回答が予想以上にありました。

商品をあえて人にたとえてもらった結果、機能や情緒面でのたとえ、回答者自身とどのような関係や距離感なのかが、多様な表現で書かれていました。調査対象の商品への新しい見方を得ることができました。

 

最後に

潜在意識とは、本人が普段は意識することがないので、直接聞いても、出てきにくいものです。だからこそ、どう抽出するかは工夫のしがいがあります。

マーケティングにおいて、ターゲット生活者の潜在意識からインサイトを見い出せれば、インサイトを源泉にしたマーケティングが、競合他社との差別化の源泉にできます。

 

買い物客はそのキーワードで手を伸ばす

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