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プラットフォーム ブランディング (川上慎市郎 / 山口義宏) 。顧客体験をベースにしたブランドのつくり方

プラットフォーム ブランディング という本をご紹介します。

 

プラットフォーム ブランディング

プラットフォーム ブランディング

 

 

エントリー内容です。

  • ブランドとは何か
  • 顧客体験をベースにしたブランドのつくり方
  • 思ったこと

 

ブランドとは何か

本書でのブランドという言葉の意味は、「生活者の頭の中にある、企業や商品が提供する体験の価値と、ロゴなどの識別記号がセットになった記憶」 です。

識別記号 + 知覚価値

ブランドについてよく言われるのは、後者のロゴなどの記号がブランドを象徴するものであることです。

しかし、本書のブランドという言葉の意味で強調しているのは、提供される体験価値です。このブランドを使う、あるいは持つことによって、このようなが体験できるという知覚された価値です。

ブランドとは、「識別記号 + 知覚価値」 で構成されます。

ブランドになるための3つのステップ

本書では、ブランドになるまでには3つのステップがあると説明されています。3ステップは、次のようになります。

  1. ロゴなどの識別記号が記憶される
  2. 記号から体験が思い浮かぶ
  3. 体験から記号を思い出す


例として取り上げられていたコカ・コーラの場合、3つのステップは次のようになります。

  1. コカ・コーラのロゴが記憶される (生活者の頭の中に、ロゴなどの識別記号が記憶される)
  2. コカ・コーラのロゴを見れば炭酸飲料であることや、爽やかな気分になれることが思い浮ぶ (識別記号を見れば、知覚体験を想起できる)
  3. 爽やかな気分になりたいと思ったら、コカ・コーラを思い出す。ロゴが思い浮かぶ (知覚価値が頭に浮かんだら、識別記号が想起される)

 

ブランドは顧客体験をベースに構築する

本書で一貫して説明されているのは、ブランドは顧客体験をベースにつくっていくことです。

 「良い顧客体験を提供しブランドの競争力を高める」 という考え方です。ブランド戦略を考える順番は、理想的な体験を描いてから、必要なモノや技術を考えます。

一方、モノを基点にした発想は、モノを作ってから顧客体験は後付のサービスとして考えることになります。良いモノを提供すれば、自ずとブランドの競争力が高まるという考え方です。本書では、この考え方は取りません。

一貫した顧客体験の蓄積からブランドは形成される

魅力的なブランドは、顧客体験が蓄積して形成されます。本書で紹介されているのは、ブランド体験の要素は3つあることです。

  • 体験の魅力度
  • 体験の量と時間
  • 体験の一貫性


ブランドの評価は、3つの要素のかけ算です。

ブランド評価 = 体験の魅力度 × 体験の量と時間 × 体験の一貫性

つまり、体験が魅力的であり、その体験の回数が多く長い時間にわたって経験し、体験自体に一貫性があるブランドが良いというものです。

3つのうち重要なのは、最後の 「体験の一貫性」 です。

一貫性は2つに分けることができます。時系列での一貫性と、ブランド接点の一貫性です。

  • 時系列で一貫性:過去も今も根本では変わらない顧客体験がブランドから提供される
  • 接点の一貫性:ブランドを買ったり利用する前から、購入プロセス、購入後の利用シーンにおいて、一貫した顧客体験ができる

 

顧客体験をベースにしたブランドのつくり方

本書の特徴はブランドの定義や理論だけではなく、顧客体験をベースに具体的にブランドをどうつくるかが体系立てて書かれていることです。

興味深いと思ったのは、ブランド戦略と戦術の5つのステップでした。

  1. ターゲットユーザーを定める
  2. ブランドターゲットのインサイトを見い出す
  3. ブランドが提供する顧客体験を設計する
  4. 顧客体験を通して到達したい理想のブランド像を描く
  5. 各ブランド接点で一貫性のあるマーケティング施策の PDCA をまわす


以下、それぞれについて解説します。

1. ターゲットユーザーを定める

ターゲットユーザーは、以下の2つに分類できます。

  • ブランドターゲット:ブランドに共感し、長期的なファンになってほしい人
  • セールスターゲット:売上ボリュームを確保できる人


ブランドターゲットという、自分たちのブランドの思想や顧客体験に共感し、長期に渡ってファンになってくれる人はどのような人かを具体化します。

定性調査によってブランドターゲットの仮説を立て、定量調査から市場構造や購買状況などを量的に検証し、ブランドターゲットを定めます。

2. ブランドターゲットのインサイトを見い出す

選定したブランドターゲットのインサイトを、定性調査から抽出します。

インサイトとは、人を動かす隠れた心理です。消費者自身も普段は意識していませんが、気づかされれば行動を起こす気持ちです。購入などの行動や、態度変容、時には習慣すらも変えるものです。

3. ブランドが提供する顧客体験を設計する

先ほどご説明したように、ブランド戦略を考える順番は、理想的な体験を描いてから、必要なモノや技術を考えることでした。

そのために、顧客体験マップをつくります。

マップでは、顧客行動ごとに、ターゲットユーザーインサイトと、インサイトを満たす提供価値を描きます。マップのアウトプットイメージは、「顧客行動 × [インサイト & 提供価値] 」 というマトリクスです。

顧客体験マップの具体例をご紹介します。ランニングサービスの例です。

  • 顧客行動:使用する (走る)
  • インサイト成果を記録したい。ランニングの達成感を得たい
  • 提供価値:運動を自動記録し分析する仕組みの提供。成果に応じて報酬が得られる

 

4. 顧客体験を通して到達したい理想のブランド像を描く

本書で紹介されていた 「ブランド知覚価値」 というフレームワークが参考になりました。理想のブランド像を描くために役に立ちます。

ブランドターゲットとインサイトに対して、4つの段階でブランド像を描きます。

  • コアバリュー:集約されたブランドの核となる価値
  • パーソナリティ:擬人化された人格としての印象
  • ベネフィット:物理的・心理的なうれしさ
  • エビデンス裏付けとなる事実や機能的なスペック


例としてダイソンの掃除機に当てはめると、次のようになります。

  • コアバリュー:吸引力の衰えない唯一の掃除機
  • パーソナリティ:先進的かつ合理的なプロフェッショナル
  • ベネフィット:使い続けても吸引力が落ちないので、部屋をいつもきれいにできる
  • エビデンス特許と高い技術によって作られたサイクロン方式の掃除機


4つのブランド知覚で興味深い指摘だったのは、そのカテゴリーや商品に詳しい人とそうではない人 (リテラシーの違い) で、ブランドを認識し理解する順番が逆だということです。

リテラシーが高い人は下のエビデンスから上に向かって理解しブランドを評価する、低い人は上のコアバリューから評価する傾向にあるという説明でした。

ダイソンの掃除機の例で言うと、掃除機に詳しくリテラシーが高い人は、特許や技術、掃除機のスペックから入り、ベネフィットやコアバリューなどの上に向かって評価します。

一方、掃除機に詳しくない人は、コアバリューの 「吸引力が衰えない唯一の掃除機」 という情報から判断します。

5. 各ブランド接点で一貫性のあるマーケティング施策の PDCA をまわす

ブランド接点とは、例えば、広告、販売店での売られ方、接客、ウェブサイト、パッケージ、商品の開封、利用、アフターサービスなどです。

各接点において先ほどの 「顧客体験マップ」 に基づき、「ブランド知覚価値」 で描いたブランド像が形成されるようにマーケティング施策を展開します。

PDCA の評価は、進捗状況を把握するための定量調査だけではなく定性調査も併用し、量と質の両方から行ないます。

 

思ったこと

本書で繰り返し強調されているのは、ブランドはユーザーが体験する価値によって形成されることです。ブランドは、「識別記号」 と、提供された価値によって体験するからの 「知覚価値」 によってできあがります。

 「ブランド = 識別記号 + 知覚価値」 です。

ここから、ブランドをつくるための基本となる考え方は、顧客体験をベースに設計することです。

マーケティングでは、商品の良さをベースに訴求するプロダクトアウトと、人々が求めるニーズを基点に訴求するマーケットインというアプローチがあります。思ったのは、顧客体験をベースにするブランディング訴求は、プロダクトアウトとマーケットインの両方の要素が入ることす。

ご紹介した顧客体験をベースにしたブランドのつくり方は、次の5つのステップでした。

  1. ターゲットユーザーを定める
  2. ブランドターゲットのインサイトを見い出す
  3. ブランドが提供する顧客体験を設計する
  4. 顧客体験を通して到達したい理想のブランド像を描く
  5. 各ブランド接点で一貫性のあるマーケティング施策の PDCA をまわす


5つのうち、1つめの 「ターゲットユーザー選定」 と、2つめの 「インサイトの見い出し」 は、マーケットインに近いアプローチです。

4つめの 「到達したい理想のブランド像を描く」 とは、プロダクトアウトの発想も入っています。

価値体験というキーワードで、消費者と企業をつなげ、消費者の頭の中にブランドをつくるという考え方は、あらためて興味深いアプローチです。

 

最後に

今回ご紹介した プラットフォーム ブランディング は、ブランドの定義と構成要素を明確に示し、ビジネスへの貴重な示唆を与えてくれます。ブランド戦略について、理論と考え方、そして、具体的な施策を経営レベルから現場でも使える内容で体系的に書かれた本です。

説明されている範囲は広く、実際にビジネスで活用するためにはそれぞれの領域で深い知見と経験が求められるものです。

一読しただけでは理解はできても、自分たちのブランドに当てはめて実行するには、一回の読み込みでは足りないと感じました。何度も読み返したい良書です。

 

プラットフォーム ブランディング

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